カテゴリ:制作秘話と解説( 16 )


グッドバイ完全解説


雲のパレード最終曲、11分18秒から始まります。


グッドバイの舞台は、空港での見送りです。
遠くにいく友人を送ります。長い期間のお別れです。

一緒に長距離の電車に乗って空港まで向かいます。
空港までもこんなに長い道のりなのに、今からそれ以上離れてしまいます。

 遠い道のりを知ってるから
 距離は無関係と言いたくなる

 ずっと一緒にいられないから
 ずっと一緒だって思いたくなる

どこにいても変わらないよね。
遠いところでもずっと一緒だからね。

口にするこれらの言葉にはどうしても虚しさが伴います。
だって、そう思ってないから口にするんだから。
距離は結構大事だし、遅かれ早かれ一緒にはいられなくなるのは事実です。
でも信じていたい。ずっと続くんだよって信じたい。
だから言いたくなるし、思いたくなる。
でもこの主人公は実際に、言ったんでしょうか。思ったんでしょうか。

 永遠はないと気づいてるけど
 永遠の手紙を書いてみたくなる

君の手元と心に、ずっと残る手紙があるなら、書いてみたい。
永遠はないって知ってしまったけど、永遠くらいの気持ちなんだよ。

長い道のりもいつの間にか最終地点。空港です。
手荷物検査を控え、搭乗ゲートに入る直前です。

今までの歌詞は全部主人公の心情でした。
だけどここで初めて、台詞になります。
言いたくなって、思いたくなって、書いてみたくなって。
ぐるぐると考えた結果、絞り出したのは、変な言葉でした。

 朝と夜は孤独じゃないんだよ

「そろそろいかなきゃね」
「うん」
「あのね・・朝と夜は孤独じゃないんだよ」
「え?」
「だからね」

 寂しくないのさ

「だから、寂しくないんだよ」

朝と夜は、一生会うことはありません。
朝になれば夜はいないし、夜になれば朝はいません。
じゃあ朝も夜も孤独なのかな。ううんちがうよ。
朝がいるから夜がいて、夜がいるから朝がいるんだよ。
遠くにいっちゃって、場所も時間も全然ちがうけど、別に寂しくないんだよ。

と、強がって出た言葉が上の言葉でした。
相手はその言葉をなぜか「うん」と受けとめてくれます。
そしてとうとう、お見送りの言葉。

 じゃあこれでね 気をつけてね

気をつけてねと言われて、自分は気をつけたことないけど、どうして言いたくなるんだろう。
無事で、おたがい無事で、また必ず会いたいからかな。

 変わっていくと知っていても
 あなただと手を振りたくなる

そして搭乗ゲートに入っていく友人を見送ります。
環境が変われば、きっと変わっちゃうだろうな。
性格も、友達も、大切にしているものも。
だからもしかしたら、これが最後かもしれないね。

だけど君を、応援しないわけがなくて。
この手を振りたくなるは、本当に振っています。
いってらっしゃい。いってらっしゃい。

後奏の間、何度も手を振ります。
ぽつんと取り残されて、笑顔でいるけど、感情は高まっていきます。
いやだな。いってほしくないな。一緒にいたかったな。
涙は一応こらえます。じゃあね。じゃあね。
そして本当に見えなくなって、ためいきをひとつつきました。
「あーあ」



グッドバイも詩先(しせん:詩を先に作ること)、というかただの詩でした。
「朝と夜は」から「気をつけてね」までがない、シンプルな詩です。
その詩につけた曲は、今の形とは全く違う、6/8拍子のロックっぽいものでした。
その形でライブで披露したことも何回かあります。
今回4曲入りのを作ろうと思ったときにはまだその形でした。

でもどうも単純なのが気になっていました。
6/8拍子を4拍子にしてみたり、譜割りを変えてみたり、色々したけどどれもずば抜けては良くならなくて。
いっそまるごと変えてしまったというわけです。

雲のパレードがなぜ4曲入りかというと、曲数を増やしたかったからなんです。
でも録音は(不慣れで)時間がかかるから、じゃあ弾き語り+α程度で公開しようと。
でもそうすると「静かな曲をうたうひと」っていうイメージが付いてしまうから、
4曲セットにすればコンセプトっぽく思ってもらえるだろうと始めた企画でした。
夜にスマートフォンを枕元で鳴らしっぱなしで眠るような、そういう感じにしようと。
結局弾き語り+αでは全然なくなってしまったんだけどね。

グッドバイも一から作り始めるのはだいぶ迷いましたが、どうしても前の状態では出せなかった。
しかも相当難しい曲になってしまって、何度も途方に暮れました。

 遠い道のりを知ってるから
 距離は無関係と言いたくなる

 ずっと一緒にいられないから
 ずっと一緒だって思いたくなる

 永遠はないと気づいてるけど
 永遠の手紙を書いてみたくなる

 変わっていくと知っていても
 あなただと手を振りたくなる

今の形の原型ができてから、さらに譜割りを2倍にしています。
(コード進行が4拍ずつじゃなくて2拍ずつでした。)
全部一緒のフレーズで(要はぜんぶAメロで)作っていたのをやめて、永遠のところで展開させることにしました。
それと最後の連では転調したいなと。
だけど永遠の展開だけではどうしても短かった。
だからそこから続く大サビを作って、歌詞を付け加えて、転調して手を振るという流れになりました。
言葉で書くと短いけどね。僕にとってはとっても大変な作業でした。
(さらに後奏でもたぶん転調しています)

でもあの大サビは(めちゃくちゃ難しいけど)弾いててめちゃくちゃ楽しくて。
特にベースはめちゃくちゃ楽しいです。
仮歌で歌っていた最初の「あー」の音以外に合う音がなくて「朝」という言葉で詩を書きました。
曲としても詩としてもあの箇所がなければグッドバイはだいぶ違う印象になったはずです。

逃走が完成して、最後のグッドバイの作業に入ったところで舞台の稽古に入ったので、半分程度の作業を舞台後に行いました。
ピアノも録り直しました。弾けないので何度もね。
印象的なエレキギターの音に似たオルガン(右から聞こえます)もかなり後半で録音しています。
それから逆再生のギターを入れてみたかったんだけど、想像どおりにできなくて、結局今の形になりました。
分かりやすいのは永遠の前の2小節かな。結果的に満足しています。というかこれでよかった。
コーラスワークの確定も公開ギリギリです。グッドバイは要は超問題児だったんです。
だけど(なぜか特に音楽をやっている人ほど)グッドバイがいいねと言ってくれることが多くて、本当に安心しました。

後奏に入る瞬間に「あーあーあ」という叫びを入れていて、大好きだったんだけど最後の最後にカットしました。
その代わり急にいなくなった感がかなり出たはずです。寂しくなる感じ。
(実は超うっすらと聞こえます。)

小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」は自分の旅立ちの曲じゃなくて旅立つ人を送る曲です。
すごい視点だよなーと思ってたら、最近「グッドバイもそうだった」って気づいてアホですが結構驚きました。

後奏は、前奏と似ているのに違うコードです。
ギターを弾きながら録ったためいきに合わせて、他の楽器も最後の音を弾いています。

(グッドバイ解説・完)


 雲のパレード関連ページ


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spring完全解説


雲のパレード3曲目、8分18秒から始まります。


springは恋人同士の歌です。
2人は近所を歩いているところ。
女の子はちょっとへんてこりんで、男の子はちょっとまじめです。

 もうすぐ春だねって
 まだ8月だよって
 気が早いなぁって
 笑ったりして

女の子が景色を見ながら、突然「もうすぐ春だね!」と言います。
でもまだ8月。夏の最中です。
男の子は普通に笑ってあしらいます。気が早いなぁって。

 わからなくなるって
 なんのことって
 よくわかんないって
 泣いたりして

そんなふうに笑い合ってたのに、
女の子がまた突然「わからなくなるの・・」と言います。
男の子はわけがわかりません。
「え? なんのこと?」
だけど女の子の目から涙がぼろぼろと出てきます。
男の子は言葉を使うのをやめて、歩幅を合わせることにします。

 自分の不器用さなんて
 どうにかしちゃうよ
 あなたのためなら

へんてこりんな君とは、もしかしたら見てる世界が違うかもしれない。
そんな君に合う言葉を見つけてあげることもできない。

だけどそれを言い訳に何かをしないとか離れるとかじゃない。
何かができないからって落ちこんでる場合じゃない。
落ちこんでるのは君なんだから。
君が僕を必要としてくれる部分があるなら、それで向き合っていよう。
君といたいんだから。

 今こんな気持ちって
 どうして分かるのって
 そりゃあ分かるよって
 笑われたりして

すっかり気持ちの戻った女の子が、景色の上の方を見てぼーっとする男の子を見ていいます。
「今こういう気持ちでしょ!」
誰にも言ったことのないような心をさらっと当てられてただただ驚く男の子。
「わかるにきまってるよ」ってさらに笑われます。
それでさらに好きになる。この人すごい人だなって圧倒されています。

 桜は咲くかなって
 もう5月だよって
 うんそうだけどさって
 悲しんだりして

出たまた季節違いシリーズ!
だけど男の子はまた、つい説明してしまいます。「もう5月だよ?」
女の子が必要としてるのは正解じゃなくて、そう思った心でいいよって共感してもらうこと。
またひとりぼっちになってしまう気がして、泣くまではいかないけど、やっぱり悲しくなります。
女の子は、自分がへんてこりんなことと、へんてこりんって寂しいってことに、気づき始めています。

男の子は慌てます。あーあーあー!そういうこと言わないでよかったんだった。
納得ができなくても、答えを出したり否定をしたりする必要なんてなかった。
ただ「そう思うの?」って言ってあげればよかった。

 自分の器用さなんて
 いくらでもすてるよ
 あなたのためなら

検索で簡単に出るような回答は、もうしないようにしよう。
確かに生活は僕のほうが上手にできる。彼女は生きるのがちょっと苦手だ。
だけどそれでも僕は彼女が好きで、必要で。
だって君以外で「今こんな気持ちでしょ」って当てられる人なんていなかったんだから。

生きるのが苦手というのは、その人がわるいというわけじゃない。
生きるのが上手というのは、別にえらいとかそういうことじゃない。
君の世界をじゃませず、そのままでも楽しく生きてもらえるように、僕はしたいな。
いちばん近くで、この世界とあの世界の緩衝材に、僕はなろうかな。



springは詩先(しせん:詩を先に作ること)の歌です。
書いたときのことを覚えています。
布団に入って、あと5秒で寝ちゃいそうなときに思いつきました。
そのまま携帯で打ってすぐ寝ました。
すでに1500篇書いてきたどっちもいいよの、かなり初期のほうの詩です。
そのすぐ後に「散歩の話」という初の連作詩を書くのですが、たぶん同じふたりです。

作曲方法を再生という曲から変えました。
それまではギターで作っていましたが、どうしても手癖で弾いてしまうんですよね。
手癖のパターン自体も多くないし即興演奏もできないので、似た曲似たコードからの壁を破れずにいました。

再生という曲はイメージがある程度はっきりとありました。
だけどギターじゃ全く弾けなかった。
だから仕方なくピアノで1音1音和音を作っていったんです。本当に1音1音探しました。
作曲時間は相当伸びたし、知らないコードとコード進行ばかりになりました。
だけど、初めてほぼ完全に自分のイメージを表せた感覚があったんです。うれしかったですねー。
相当な手応えを感じて、次に作曲したこのspringからその方法を正式採用しました。
springは元々は手癖で作った曲だったのに、ちゃんと自分の曲になりました。
雲のパレードの他の曲ももちろん全部そのやり方で、全部知らないコードとコード進行がでてきています。

冒頭から出てくるあーあーあーっていうコーラスはだいぶ後半で思いついたものです。
だけど、もはやないと不自然に感じるほど自分の中で当たり前になりました。

サビのコーラスワークは何度もやり直しをしました。
「自分の」って一緒に歌うハモリだったり、小節の頭からあーって歌うコーラスだったり。
このパターンは結構最初にボツにしかけたものでしたが、拾い直して正式採用してあげました。

ドラムは、逃走やグッドバイの一定のリズムとは違って自分でリアルタイムで打ち込んでいます。
鍵盤でドラムをやるって言って伝わ・・らないかもしれないけど、そんなことをしています。
アコースティックギターは本当は使いたくありませんでしたが、必要なので使いました。
ちなみにベースラインには、どの曲も自信があります。
適当に弾くと単純になりすぎるので、どういうふうに弾くかの設計図を作ってから録音しているから。
本当はね、一発で理想の演奏ができるのがいいんだけど。

イントロはたった3拍のへんてこなものです。
イントロが長いとデモを聞いてもらったときに待たせてしまうので(そしてもういいやと思われてしまう)、そういうイントロにしたんです。
他の曲ではもうあんまり気にしてないけどね。
2番の始まりで聞こえる高音は、なんとなく雪をイメージしています。

雲のパレードはフロート、spring、ちょっとあいて逃走、またちょっとあいてグッドバイという順に完成しました。
最後4曲の音量を合わせたりする作業のときに、springがどうしても気になってYouTubeに上げる直前にミックスをし直しています。
せっかく終わりが見えたのにまたやり直し・・ってもう吐きそうだったけど、結果的にはやってよかったんじゃないかなと。

主人公の女の子はへんてこでちょっと泣いてるけど、ファニーなせいで、
雲のパレードの中ではいちばん穏やかにきける、散歩に合う曲になりました。
作詞作曲時の気合いの入り方は正直他の曲のほうが上です(詩はほぼ寝て書いたものだし)。
だけど力の抜けてる感じがいいんだし、この曲を好きって言ってくれる人もいて、やっぱりこの4曲に入れてよかったなって思います。

(spring解説・完)




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逃走完全解説


雲のパレード2曲目、2分38秒から始まります。


逃走はそのまま、逃げる詩です。
夜中にひとり逃げ出します。

 裂ける心だけでも 理由になれるよ

何かを やめるのには、理由が必要だと思ってしまう。
嫌だから、なんて理由ではやめちゃいけない。

ううんそんなことないよ。
上司も部下も最高で給料が高くても、
好きな同級生がいてみんな応援してくれてても、
誰かを納得させる立派な理由がなくても、
心がピキリと痛んだら、それだけを理由にしていいんだよ。

 アイディアが0個でも 逃げたって平気

これやめてどうする気?
やめてなんかあてがあるわけ?
そんなのなくても、逃げたっていいんだよ。
まずこっから出てしまおうよ。

 触れればなくなる でも触れたくなる

あっちに行けば、こっちは消えてしまう。
だけどせずにはおれない。行かずにいれない。
触れずにいられない。

 どこまでもいける 仮の私でも

今の私が何者でなくても、資格も何もなくても、
仮の私でも、どこまでだっていけるさ。

 何かになるのを 待っていれない

何かになったらこうできる、何かになったらこうしよう。
そういうのはもうやめた。

何かになるときなんかいつまでも来ないし、何かになったときに今の私はいない。
今の私が、そうしたいんだから。
今の私が仮の私だろうと、もういくんだから。


そして逃走は2番に入ります。
逃げる準備をするシーンからです。
ほぼ夜逃げ同然。
自宅前の道路で、ワゴンタイプの白い軽自動車に荷物を積んでいます。

雨でも降ったらドラマチックだったかな。
吸い込まれそうなほどの星でも見えたら泣いてしまったかな。
だけどこの日の天気はちょっとだけ曇り。
ドラマチックな天気とは一番遠い天気です。
星が、2つだけ見える程度の。

 星がふたつくらいの 声のない門出

一大決心をした、きっと人生で重要なはずの門出ですが、声は聞こえません。
誰からも見送りの声は聞こえない。誰からの応援の声もない。
もちろん自分の声も。
ただ黙々と、荷物を積んでいます。

 ぎこちない呼吸でも ひとまず使える

緊張したときみたく、浅い呼吸になってる。
というか緊張してるんだろな。
うまく吸ったり吐いたりできていない。
意識すればするだけ分からなくなる。

だけど、この呼吸で今生きていられてるんだから、いいや。
とりあえずいいや。別にいいや。

 もう出よう 心が正しくなる前に

あの人に挨拶したほうがよかったかな。
あの荷物は積んだかな。
っていうかやめて本当によかったのかな。
みんなが言ってたことを聞かなくてよかったのかな。

いや、もう出よう。
誰かの正しさに、ここにいたらなってしまう。
裂ける心の音を、自分だけが聞いたんだ。
誰かの正しさは、自分のとはちがうから。

 だれとでも同じ? どこででも同じ?

あいつが言いました。
「お前なんて、どこに行ったってどうせ変わらないよ。誰といたって同じだよ。何も変わんねえよ」

 同じならもういいや

同じなら、ここじゃなくていいや。
同じなら、ちがうところでいいや。


ここで間奏に入ります。
車に乗って、もう出発しました。
激しいオルガンの音。
運転をしながら「うわー!」とか「うおー!」とか叫んでいます。
それらをかき消してくれる、オルガンの音。

4時間、5時間、だんだんと海沿いの方に近づいてきます。
改めてこう思います。

 思い出が入れ替わってもいい いいよ

今までの思い出が全部なくなって、全部新しい思い出になってもいいよ。
そういう覚悟で、出発したんだ。

空が少し明るくなってきました。
浜辺の近くで、車を止めます。

 風の音だけの世界だと思った

自分はこれから、茨の道を進むと思っていた。
けわしい道のりを、進むと思っていた。
ずーっと、ごおおおという風の音が、いつも耳で鳴ると思っていた。
足はいつも震えて、不安でいっぱいの日々になると思っていた。

だけど今はどうだ。
風の音などしない。
波の音がざああと聞こえるだけ。

静かだ。
穏やかだ。心が。
不安でぐちゃぐちゃになると思っていた心が、まっすぐピンと機能している感じがする。
立っているのもままならないと思っていたのに、地面にしっかり足が付いている感じがする。

あ。
正解だったんだ。
ここに来るの、正解だったんだ。
ここに来たかったんだ。

 朝が来ることも忘れるほど

ずっと夜のままだと思っていたんだ。

 どこまでもいける
 仮の私でも どこまでも

大丈夫。大丈夫。大丈夫。
きっと間違ってない。大丈夫。大丈夫。

そして短い間奏を挟んで、Aメロに戻ります。

 ずっとずっと来なかった いつかになるかな

いつも何かを待っていた気がする。
何かがどこかで変わると思っていた気がする。
いつかきっと何かが。ずっとそう思ってた。

だけど日々はいつまでも日々のままで、大きな出来事など起こらなかった。
漠然と何か外側に期待して、自分はいつも部屋の中にいるだけだった。

これからは、あのいつかに、していけるかな。

 朝が雲の中でも 夜はもう終わり

空は完全に明るくなった。
だけどやっぱり、ドラマチックでもなんでもなく、ただの曇り空。
雲を地球上が覆っていたら、ここは今、雲の中だな。
だけど、夜はもう、終わり。



逃走は雲のパレードの中でいちばんヒリヒリとした曲です。
だけどやさしさがあって、尖っていないヒリヒリ。
この曲に「君」や「あなた」は出てきません。
たったひとりでの決意と行動。誰にも認められない衝動。

この曲もフロートと同じで曲先(きょくせん:曲を先に作る)だったので、後で歌詞を書きました。
歌詞で一番苦労したのは、風の音からの2行です。
完全にイメージがあるのに、2行では足らなくて何度も書き直しました。
海についたこと、夜が終わったこと、ずっと不安だったこと、ずっと震える日々だと思ってたこと、
思ったより震えてないこと、むしろちゃんと地に足がついている感覚があること、ここに来たかったんだと分かったこと。
これを全部入れるのに苦労しました。風の音でいけるかもと気づいたとき、心拍数がだいぶ上がりました。
あとは星がふたつくらいのってところかな。
夜ってあまり曇りって言わないから、曇と夜を使わずに天気を表す言葉を探していました。

この曲のデモでは適当に「酒飲む」から始まっていたので「酒飲みの唄」って呼んでいました。
その「SAKE」の響きはどうしても変えられなくて、そこから裂ける心という言葉になりました。
一箇所だけ酒飲みの唄のときから残っている歌詞があります(内緒です)。
さらにその後、逃走とタイトルを変えた当時の歌詞がどっちもいいよ上に残ってますね。
今の逃走の歌詞がどれだけ錬られてるのかがたぶんすぐに分かるはずです。

イントロの変な音のギターは、とっても迷いました。
ヒリヒリしてる曲にこんなファニーな音を入れていいかどうかということです。
迷って消して、でも捨てきれずに戻して、というのを何度も繰り返しました。
伊坂幸太郎の重力ピエロに「大事なことはユーモアで伝えろ」みたいの台詞があったなーと思って読み返したりもしました。
実際はちょっと違ったんだけど(というか小説の良さに普通に心を打たれて泣きました)。
でも結局捨てきれず、むしろ好きで、いれました。
途中でもういっかい鳴るところも、いいでしょ。

作曲のコード取りで難しい箇所は何箇所もありましたが、時間をかければなんとかできることも分かってきました。
ちなみに理由になれるよの1拍前の和音は、デモの段階で適当に弾いたコードをそのまま採用しています。
すごくいいと思ったからだけど、音楽に詳しい友達には「ありえないコードだよ」と言われました。でもやめられなかった。
夜はもう終わりのところも、元々は適当に弾いてたやつを採用したものです。

間奏のオルガンは、上にも書いたとおり、一番感情が出てるシーンだったのでああいうオルガンになりました。
音量もなるべく上げて、車の中の密室になったときのようやくの感情の爆発を、あそこで描いたつもりです。
そして大変だったのは4小節だけマーチングバンドみたいになるところ。
これは、どこまでもいけるのあと、自分から湧き上がる応援団みたいなのを演出したかったからです。
本当は生の吹奏楽で録りたかったけど、できないので、コンピューターの中にある音源の中から、なるべく生に近いものを選んで使用しました。
うっすらと生のサックス吹いてるけど、小さいのでたぶん分からないはずです。

冒頭からずっと鳴っている規則的なリズムは、揺れる心の中でもぶれない、信念みたいなものです。
ここから抜け出そうという曲でもなく、抜け出したあとの曲でもなく、ちょうどその境界にある曲は意外とないんじゃないかな。
だけど必要な曲だと信じています。

(逃走解説・完)


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フロート完全解説



https://www.youtube.com/watch?v=mFETqonOGes


フロート(float)というのは「浮遊する」とか「たゆたう」とか、とにかくふわふわと、ふらふらとしている、という意味です。
コーヒーフロートは、コーヒーの上にアイスがふわふわと浮いているよね。

主人公は、原っぱというか、草原というか、そんなところでひとり仰向けになって寝ています。
何にもないところではなくて、寝ている頭の先には2階式の駅があります。線路はスーッと真っすぐ伸びています。
だけどそれしかありません。人の気配もしません。電車も、時々しか来ません。

時刻は朝の10時くらい。
つまり主人公は、なんらかの休憩中です。
学校をお休みしてるのかもしれないし、お仕事を休職してるのかもしれないし、単に休憩してるのかもしれません。

おそらく、主人公には悲しいことがあったと予想されます。
落ちこんで、言っても何も変わらなくて、悔しくて。
ただ、そういう悔しさの最中の心の傷がグジュグジュした状態ではなくて、それから少し経った状態です。
悔しさは消えてったけど、悲しいなあという気持ちがまだ残ってるかなくらいの、そんな状態。

色んな葛藤が主人公にはありました。休憩も、簡単に決めたことではありませんでした。
助走をつけて休憩をしたんです。
様々なめんどくさいこと、しがらみ、環境に束縛されていたんだと知って、それを振りほどくように。
そこで歌うのが次の歌詞です。

 纏うのは はずしていい

まとっているいろんなこと。
そういうのは、外して大丈夫なんだよと、自分に言っています。

 濁す言葉も なくそう

汚い言葉を浴びて、自分からも汚い言葉が生まれそうになることがありました。
だけど、自分の心を濁すそういった言葉はもう捨ててしまおうと、また自分に言っています。

見ている空は、水色と白の風景です。
雲が、いくつものかたまりになって、ゆったりと流れていきます。

 人のない 雲のパレード

自分以外、人気(ひとけ)はありません。
このパレードを見ているのは自分だけ。

 見当たるものが ひとつもないけど

雲のひとつひとつのどこにも、自分が探しているものはありません。
辺りにも、どこにもありません。
そもそも自分は何かを探しているんだろう。
そうふと考えたりもします。

だけど、何もなくても。

 いま なんか しあわせ

主人公は、濁す言葉を捨てて、圧倒的な肯定力を持った言葉で、今の気持ちを表します。
いま、なんか、しあわせ。
何か見つかったわけでもありません。
だけど、いま、なんか、しあわせ。
それ以上でも、それ以下でもありません。

 とまるな

とまるな。とまるな。

そしてピアノの間奏が入った後で歌われる歌詞がこれです。

 永遠の 続きはない

永遠に続くことなんてないんだ。
しあわせ、とまるなって言ったけど、きっと止まる。
だけど悲しいことも続かない。
自分の悲しみは、永遠じゃないんだ。
この状態は、もう続かない。

 わかる そろそろ 飛ぶのだ

わかってるよ。
もうそろそろ、動き出すときだよね。
だから飛べるではないんです。飛ぶんです。



フロートは、雲のパレードの中で一番好きな曲かもしれません。
全曲好きだけど、詩やアレンジが上手くいったとかそういった要素をなくして、シンプルに曲として一番美しい。
作曲は鍵盤を使って行ったので、メロディはとてもきれいなんだけど、その分歌うのがとても難しい曲になりました。
曲にはキーといって、その曲の高さと、実は雰囲気まで決める土台要素があります。
カラオケで上げたり下げたりできるあれです。
フロートのキーはF。それまではFのキーは単純すぎる気がして作れなかったのに、この曲から使えるようになりました。

きれいで、言葉数の少ないメロディに詩をつける作業は苦労しました。
この頃はスマートフォンだけ持って朝散歩に出かけて、思いついたらメモをするみたいなことをやっていました。
(人のアイディアは散歩時とシャワー時に出やすいそうです)
一番難しかったのがサビ終わりの4文字です。
それ以外はできているのに、その4文字だけずっとできませんでした。
夜中に散歩して、帰ろうとしたときに見た「とまれ」の標識を見て決まりました。

その4文字の直後にピアノだけになります。
ここはイメージがあるだけで、まったく音で表わせませんでした(僕は即興演奏ができません)。
だからピアノを適当に弾いて、それを何度も録画して、近そうな雰囲気のものをコツコツ整えていきました。
ちょっと専門的な話だけど、ピアノの最後のコードが偶然Cになって、そのままFのコードに戻れたとき、たまらなくうれしかったです。

ここからは録音のはなし。
右から聞こえるギターがふわふわしてるでしょ。
エレキギターのエフェクター(足元にあって、踏むと音を変えられる装置)には全然詳しくないけど、フロートに合った音にするために試行錯誤しました。
あと目立つのは木琴かな。これが一番大変だったかもしれません。
速すぎてもだめ遅すぎてもだめで、ちょうどいいテンポ感になるまで、数百回やり直しました。
できたと思ってもあとで聞くと速く感じたり、木琴の鳴る2箇所で全然速さが違ったり。
マリンバ奏者の知り合いがいればいいのになんて(愚痴のように)思いながら録っていました。

ボーカルはダブルトラック。
ダブルトラックは同じメロディを2回歌って同時に鳴らす手法です。
ビートルズの多くの曲やMr.Childrenのイノセントワールドで使われていて、同じ人が歌っているのに微妙なズレが起こることでちょっと不思議な声になります。
でもダブルっぽさがあんまりでないようにうっすらと。よく聞くと2つ聞こえるはずです。

間奏で演奏に加わったピアノが、後半一緒に演奏してくれて、その音の混ざりの感じが泣けるんですよね。
実際録音してたときに泣きそうになったくらい。
フロートってひとりしかいない物語、全楽器がユニゾンをしている世界に、なんか強い味方が、なぜか自分の内側から現れてくれたような、そういう気がしたんですよね。

(フロート解説・完)


追記
フロートになる前の歌詞「おしゃべり」がどっちもいいよにあることを忘れてました。
フロートのメロディで歌えます。


 雲のパレード関連ページ
 新曲群「雲のパレード」
 ダウンロード販売について
 フロート完全解説
 逃走完全解説
 spring完全解説
 グッドバイ完全解説




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このどっちもいいよというブログには
制作秘話と解説」というこっそり人気のコーナーがありました。
ブログは更新すればするほど、前の詩がどんどん後ろへ行ってしまいます。
その詩にライトを当てるような気持ちで始めたコーナーです。

今は毎日詩を書いているので、新しい解説は書かないつもりでいました。
5篇1解説でやっていたのですが、それでは1週間分にもなりません。
前のを振り返るより、見たことない詩が出てくる方に興味が移っていました。

けれど当時書きためていた原稿と読みたいという声もあるので、
そういうのを一気に消化しようと思います。

それでは張り切って、どうぞ!
(張り切るのは俺でした!)


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振り返るきっかけになればと思って始めたこれももう11回目だ。
制作秘話と解説、始まりますよ!

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