カテゴリ:制作秘話と解説( 17 )





後述しますが、この曲は元々3日で構成から録音、パッケージング(CD作成)まで行った曲です。
時間があまりになかったので作詞は一瞬(毎日詩を書いててよかった)。

だから雲のパレードほど曲の背景はありません。
でも一瞬で書いたからこそ、普段から考えてることがそのまま出た気がしています。
テーマは結婚、というか、一緒に生きるということ。
解説行きますね。


ーーーーーー


 空の色変わってもずっとそばにいられるから
 満開の桜が全部散っても一緒だから


子供の頃からさよならが苦手で、ずっと遊んでいたいのにってよく思っていました。
夜になっても、全盛期が終わっても一緒にいれるね、一緒だよという嬉しさと決意表明です。


 悲しいことばが心に刺さっても
 うれしい未来でね コーティングしちゃうよ


幸せ!幸せ!という結婚ソングを僕は書けませんでした。

話は逸れますが、とある団体のある一人が何か事件を起こしたとき、即除名されることがよくありますよね。
僕はそのニュースを聞くたびに結構傷つきます。
(事件を肯定してるわけではありません)

一緒にやっていくって決めるってことは、何かあっても引き受けるだけの覚悟を持つってことなんじゃないかなって思っています。
むしろそういう覚悟がないからあぶれてしまったのでは、と思うことも少なくありません。
例えば今回も活動停止したタレントにテレビ局が損害賠償を求めるようですが、
そのタレントがいたことで得たメリットはなかったんでしょうか。
金を稼ぐっていうのはそういうこと、なのでしょうか。

適当に採用して、使えないバイトのシフトを入れなくするのも僕は好きじゃありません。
それならむしろ3日くらい時間をかけて、一緒に飯でも食いに行って、採用すればいいんじゃないかなと思ったりもします。
一度一緒にやるって決めたんなら、覚悟しろよって思うんですよね。

結婚は当然(現状より)幸せになるためにするものですが、
何年も何十年も生きていればそりゃあ悲しい気持ちにだってなるはずです。
幸せ!幸せ!だけではいられないよね。

でもそれを言ったところで何になるの?
悲しみは確かに消せないけど「悲しいの。それは当然だね」って言ったところで。

うれしさに変えちゃうよだとおこがましいけど、コーティングくらいならできるかなと思ってこの歌詞になりました。
ここの振り付けも気に入っています。


 なんかしあわせ yeah yeah yeah yeah yeah
 はなうたが こぼれちゃうくらいに


たわわなしあわせの歌詞には、前作雲のパレードの1曲目フロートの世界観がなぜかちょっと入っています。
「なんかしあわせ」というのはフロートの印象的なサビの言葉ですね。
最近まで気づいてなかったほど、一瞬で作詞したんですよね。

その「なんか」という言葉はたぶん僕の好きな言葉です。
理由がうまくいえないというのは、たぶん一番芯に近い感情なんじゃないかな。
「安原くんの曲なんか好き」って言われたらたまりません。
(呼び名は別にやっさんでもやすくんでもなんでもいいんだ。)

はなうた、という単語は漢字にすると相当強い言葉になります(鼻歌)。
鼻唄、ハナ詩、どうやっても声で出すやわらかい響きにはならない。
花歌、これはやりすぎです。


 ずっとふたり? それとも yeah yeah yeah yeah yeah


24くらいからかな。
特に女性に対して「子供は何人がいい?」と言えなくなりました。
本人がほしくないかもしれないというのもあるけど、
それ以上に、もしかしたら生めないからだかもしれないというのが大きいです。

結婚→出産が幸せの形だと、あまりにテンプレート化しすぎていて、
(生みたいのに)生めない人が必要以上に傷つく社会だと思っています。
僕も子供は好きだしいずれ欲しいけど、その考えが本能なのか社会の教育のためなのかはわかりません。

余談ですが、アンジェリーナ・ジョリーかな、が実子もいて養子もとってる話が好きです。
養子の子について「この子がいちばん私に似てるの」って言ったとか(どこで読んだかは忘れたので信用しないでください)。
離婚しちゃったけどね。

ずっとふたり?という歌詞には、そういう気持ちぜんぶ入れています。
ふたりでもいいし、子供ができてもいいし、養子を取ったり、親と暮らしたり、猫を飼うのもいいよね。
どうしよっか。yeah yeah yeah yeah yeah。

だからこの曲のPVでは、赤ちゃんを連れてくるほうは男の子にと決めていました。
ギターソロは女の子だと決めていました。
そういうメッセージを、この曲とPVには内在させたつもりです。


 未来はね 知れないのさ フューチャー!
 なのであなたといたいの


未来は知れない。
何が起こるか、何を思うか全くわからない。
検討のできない未知を歩いていくなら、あなたとがいいよ。

フューチャー!の箇所はもうこれ以外はまらなかったのでこの言葉になりました。


 永遠はたいてい偽物だった


フロートにも永遠についての言及があります。
未来は知れないんだから、そりゃあ永遠は偽物ですよね。
永遠って価値のあるように言われるけど、偽物であるならその言葉自体の信用問題になります。

ただこの歌詞を書いてから気づいたんですが、結婚式って永遠を誓いますよね。
やべー。書き直しかなー。って思ってたら、次の詩が出てきました。
ちょうど転調のシーンです。


 だけど心の中 永遠が光る


ここで結婚行進曲のアカペラが入ります。
これも後述しますがこの曲は実はここから作り始めました。

さて。
本編に戻って、転調して高くなったサビに戻ります。


 あなたがいるから yeah yeah yeah yeah yeah
 ぼくだって 力になるからね


ここはそのままの意味です。
ぼくだって力になるからねという言葉からは、力関係がいまいち読み取れないですよね。
相手がメインで力になってるのか、優しさからの言葉なのか。
そういうのでちょうどいいんです。上下とかないから。


 だって愛してるから yeah yeah yeah yeah yeah
 生きてると 変わってくけど


力になる理由は愛しているから。
だけどその直後に「生きてると変わってくけど」という、なんでそんなこと言うの!みたいな歌詞が。

変わっていくのは未来のところで説明済みです。
でも変わってっちゃったら、その「愛してるから」っていう理由はかなり危ういですよね。


 たわわなしあわせ yeah yeah yeah yeah yeah
 実らせようぜ 各々頑張って


だからこの詩です。
一緒にとか、協力とか大切だけど、仲悪くなったらそこまでです。
愛してる、その一点だけのパワーは、長く一緒にいれば(気持ちが薄れなくとも)どうしても弱まるでしょう。
そこでおしまいなら結婚する意味って?ってなってしまいます。

各々頑張って。
だからこの詩です。
今ある力(愛してる)だけでなんとかなることばかりじゃない。
だからそれぞれがそれぞれで頑張って、この実をたわわに実らせようぜ。

相手にばかり「こうしてくれ」とか「こうしてくれない」と強依存してしまっては難しいだろうと思います。
「俺は(私は)これをやってるのに」という理由付けも。
やった分やってほしいとか、やってない分つけを払ってほしいとか、そういう目的だったんだっけ。結婚って。
この実をならすほうが、ずっと大切じゃなかったんだっけ。


 もっと君が好きだよ yeah yeah yeah yeah yeah
 10年後 そう言うよ フューチャー!
 未来で待ち合わせしよう


未来はわからない。永遠もほぼ偽物。
そう言ってたのに最後にこう歌うのは逃げでしょうか。
それとも、各々頑張った結果、当然存在するものでしょうか。
僕は後者だと思って、この詩を書きました。


ーーーーーー


今回の詩には背景がないと言っときながら、がっつり書けました。
やっぱり普段から大事に考えてたことが出たんじゃないかなと思います。

さて、そしてみんな気になるこのPV。
超絶かわいかったでしょ!ずるいと何度も言われました。ふふふ。

雲のパレードで静止画のPVにしたのは理由がありますが、もう次からはちゃんと動画のPVにしたいとは思っていました。
そしたらサビのステップが歯磨きしながら突然浮かびました。
これこどもたちと踊ったら面白いのでは・・という下心とセットで。
出演してくれたこどもたちはいとこたちのこどもです(つまり彼らもいとこ同士です)。
ここ1、2年で仲良くなったあのこどもたちと踊りたいなーって妄想していました。

ただ個人情報だのなんだのがうるさい世の中ですから、顔が出るのも親(いとこ)としては渋るかもしれません。
電話で聞いたらどのいとこも即快諾してくれました。笑
快諾って、うれしいんだよねー。

さらに、このPVを録ったのは10月上旬、かついとこたちの家は雪の降る街にあるので、
「もうちょっとしたら雪降り始めちゃうからすぐにでも来たほうがいい」って言ってくれて、
電話をしたその週末にはもう道具を持って向かっていました。

シーンは主に2つ。家と土手。
カット割りなんてできないだろうから、それぞれ長回しで。
かつブランコの前でちょこっと撮れたらと元々考えていました。

日程は土日のみ。
土曜は練習したのち家のシーンを撮って、日曜に土手とブランコで撮ればOKと思っていました。
思っていましたが、だめだった。笑
小学生の集中力を甘く見てました。何度もYouTuber(ドラゴンボールのカードをただ1枚ずつ見るだけの動画)に負けました。
いとこ(親)に怒ってもらったりしながら笑、土曜は練習のみ(しかも間に合わず)。

日曜の朝から迎えに行って、追加練習して、ぐずぐずいう中でなんとか撮って(踊るときは楽しそうに踊ってくれる)、
ラーメン食べて、土手のシーンを練習して。ね、かなりやばいでしょ?
だって土手のシーンは日が暮れたらおしまいです。ほんとに、ほんっとにぎりぎりだった!

でもそのおかげで、マジックアワーというのかな、すごくきれいな時間帯になりました。結果的にね。
帰り道でブランコのシーン撮っておしまい。
「今そこ違ったでしょ」と指示&チェックをしてくれたいとこのたかちゃんと、
「かわいいよ」ってテンションをキープさせてくれたいとこの義理の夫(いとこだね)のとおるくんにはアシスタントとしてだいぶ助けられました。

俺のわがままに付き合ってくれたもはや主演のふたり、そうたとりお、最高でした。
いつか、普通に遊ぶ週末より特別だったと思い出してもらえるといいな。
小学生の頃の記憶なんて忘れちゃうか。
さらに、ちょうど「ずっとふたり?」のシーンに合う、生まれたてのこども(ゆい)がいたのでこの子にも出演してもらいました。
もう歩いてるかな。

さらに、本編とともにアウトテイク集も同時公開しました。
これが超絶かわいいので、何度でも見てください。
ラストのデモ音源は、音楽制作ソフトに残ってたラストシーンのデモが直前に見つかったのでいれました。





動画の編集は初めてで当然調べながら。ひーひー言ってました。
動画編集ソフトがかくかくしてもうだめかと思ったけど、なんとかなってるよね。
というか上手じゃないですか!!
曲が完成してから2日で両方仕上げました。

曲も良くてPVも良くて。
どうしますか。

(以下は音楽作りの解説(というかドキュメンタリー)です。ボリュームがあるので読みたい人だけどうぞ。)


ーーーーーー


 「じゃあお前もなんかやれよ。例えば曲作るとかさ。そうじゃないと」
 そう言われて「じゃあ曲つくる」と即答した。自分には曲作りしかないという自負からではなくて、妥協案としてそれしか選択できないと思ったからだった。
 しかし4日後の昼には高速バスに乗って遠出しなければならない。リミットは3日間。


という出だしで結構なボリュームのものが書けるほどの状況でした。
でも、まだその話ができないので今は控えておきます。いずれラジオかどっかで話しますね。

一度聞いてもらえばこの曲が結婚をテーマにしてることはわかるはずです。
途中で露骨なパートもあるしね。
もちろん状況もそういう状況でした。出席できない結婚式に、ということです。


さて制限時間3日でさっそく曲作りです。
曲作りにはいくつかのパターンがあります。
大きく分けると詞先(しせん)か曲先(きょくせん)(作詞と作曲のどちらからやるか)があります。
僕に関していえば、以前は詞先ばかりでしたが現在は曲先をメインでやっています。
(前作4曲入りの雲のパレードは半々です)

さらに曲先のやり方も様々です。
ギターで弾きながら作るか、ピアノで作るか、メロディから作るか。

ギタリストがギターで作ると手癖(てくせ:普段つい弾いてしまうコード進行)で作ってしまいがちです。
特に僕は、頭のイメージをギターで変換できるほどの技術がないので、弾けるギターのレベルを曲が超えることがありません。
なので僕は、再生という曲からはピアノで一音ずつすべて探しながら作るようになりました。

まず絶対使うであろう1音を決めます。その音に残りの11音全部あてて合う音を探します。その繰り返しです。
やっぱこの音いらなかったとやり直しになることも当然あります。
そうやって決まったコードから、また次のコードを1音目から探します。
(これはめちゃくちゃしんどい作業です。でもその分名前のしらないコードにもたくさん出会いました)

ただ今回は状況がちがいます。
3日という期限を考えれば手癖でつくってしまうのが一番手っ取り早いはずでした。
別に手癖=だめな曲というわけではないのですから。

だけど僕がこの曲の作曲時にまず何を考えたかというと
「ララーラーララーラーラーラ(結婚行進曲)って入れよー」。

その結婚行進曲に合う楽しいリズムを考えて、そのリズムを流しながら作ったんです。
なんとリズム先(せん)。
既存の結婚行進曲のパートにギターの手癖で繋ぐのも至難の業です。
ということで必然的に、ピアノで1音ずつ探すいつもの時間のかかる手法を選ばざるをえませんでした。
時間がないのにもかかわらず。

ずんちゃ・ずっずちゃ、というリズムを流しながら最初にできたのがサビのあのメロディ。
すでにyeah yeah言ってました(ちなみに他の歌詞もすべてyeah yeahでした)。
そのあと大好きなBメロ、Aメロと完成しました。
もちろんメロディだけでなくコード(和音)を取らなければなりません。
案の定知らないコードとコード進行の連続で、すでに史上最難の曲になっていました。
すでに1日半は経っていたと思います。

それが終わると結婚行進曲のコード取り。
YouTube上にある楽譜を参考に(時間がなかったので)和音を取っていきました。
コードを取って、ギターで弾いて、結婚行進曲の和音ってこんなにかっこよかったのかと驚きました。痺れるほどかっこいい。
曲中ではコーラスのみのパートだけど、ライブでやるときには弾きますね。

さてここで問題が生じます。
その時点で作っていたたわわなしあわせのキー(カラオケのときに上げ下げするやつです)はC、結婚行進曲もC。
本来はなんの問題もなく繋ぐことができます。

だけど僕は、結婚行進曲を自分の一番いい声で歌いたかったんですよね。
「やすぴは高い声がいいと思う」と何度か言われたのも大きな理由です。
それまでは自分の高い声に前までは自信がありませんでしたが、積極的に高い声を使うことに決めていました。

調べたら自分に一番あっていたキーはF。
ピアノでいうと、Cから鍵盤5つ分上です。
転調(キーを変えること)は普通鍵盤1つか2つ分。
グッドバイで3つ分の転調をしましたが、5つ分の転調はおそらくかなり異常です。

でもやる。
時間がない中で、リズム先にしたり大胆な転調を入れるという決断は相当危ういものです。
でもそれは結果論であって、このときの僕には出てきたアイディアを捨てる時間がなかったということです。
現在の構成みたいなものを3日で作ってと言われたらまあ断るでしょう。

しかしこの転調がめちゃくちゃ上手くいきます。
PVでいうとちょうど外に行く瞬間。タンバリンがなるところ。
たった1小節、2つのコードで鍵盤5つ上の世界に行くことに成功しました。
あいつのケツはデスヒップのラップパート、再生、グッドバイの転調ときて、この転調ができたことで、
1小節、もしくは2拍あればもうどこへでもいけるなと思えました。

この結果、元のたわわなしあわせも鍵盤5つ分キーが上がりました。
元々の難しいコード進行を別の指で弾かなければならなくなったのはもちろん、歌うのも非常に大変になりました。
でももう引き返せない。すでに2日半が経っています。でもこれで最後まで構成が完成しました。

このコードを取る作業の中で、不思議なことがいくつか起こりました。
結婚行進曲に入る前のパートで初めて使ったコードが、結婚行進曲の中でいくつか登場したことです。
キーを自分の声に合わせてFにした結婚行進曲にです。
さらに転調後のサビの中に、転調前のパートでこれも初めて使ったコードが登場しています。
なんでこんなやり方を選んだんだと何度も思っていましたが、このとき初めて、運命的だったのかもと思ったんです。


さあもう3日目の昼。かなりやばいです。明日の昼には高速バスで遠出です。
詞ができてないけど、音の出るアコースティックギターを(夜になると録れなくなるので)先に録ることにします。
もちろん問題が。コードが難しすぎるんです。
時間がないから端から一発で録音することを諦めました。
録音機器にはパンチインと言って一部だけを録ったり録り直したりする機能があるので、もうパンチインパンチイン。
だってむずかしいんだもん!完成が先と、ひたすらパンチインをしました。
(それでも2、3時間はかかりました)

次はベース(その前に作詞だったかな)。
ベースという楽器は、コードの一番下の音だけをひたすら鳴らしていてもなんとかなります。
時間がないならそうすべきです。
だけどそうはしなかった。しっかり設計図を作って、そのとおりに弾きました。
たぶんだけど、特にデモの段階ではメイン楽器がアコースティックギターとベースと打ち込みのドラムだけというのもあって、
ベースの重要度が高いと気づいていたんだと思います。
というより、自信があるから手を抜きたくなかったのかもしれません。
ベースライン、よく聞くとがんばってますよー。おかげでその後録り直しもしませんでした。

その後サビで鳴らすエレキギターとギターソロを録りました。すでに深夜3時あたり。
僕はエレキギターのエフェクター(音をひずませたり変えたりする機器)にあまり詳しくないので、
本来は音作りにすごく時間がかかるタイプです。でも今回はそんなこと言ってらんないです。
早く決めるぞ!とだけ決めて音作りをしました(たいしてやり方は変えませんでした。笑)
そうして作った音は、なんでかわからないけど、とっても好きな音です。
この2つの楽器ももちろん録り直しをしませんでした。

さてそんなこんなですでに5時。やばくないですか。
だって結婚行進曲のコーラス録ってない、どころか、どういうパートで歌うかも考えてません。
いっそいで(でもなぜか丁寧に)考えて、そのあとの伸ばしのパパパコーラスまで考えて録りました。
すでに徹夜でしたが、いったん寝てしまうと喉が戻ってしまうので、もう寝る選択肢はありませんでした。
だって昼まであと少し!!!

メインボーカルも一緒に録って(よく喉が持ったと思います)、使うテイクを選んで、
いっそいで音量調整してCDにして支度してギリギリ。13時に外に出ました。

4時間の高速バスの中で、そのたわわなしあわせをずっと、ずっと聴いていました。
楽しくて仕方なかった。自分の曲を完成直後にこんなに聞く経験はそれまでありませんでした。
だから徹夜明けなのにあんまり寝れなかったんだよね。


ーーーーーー


その好きなたわわなしあわせを本格的に仕上げることにしました。
まずしたいなと思ったことは、生ドラムの録音です。

前作雲のパレードでは自分ひとりで作ることがテーマのひとつでもあったのですが、もうそういうのはおしまい。
ドラマー兼幼馴染みのつなかわ和行くんにお願いして、一緒にスタジオに入って練習して、吉祥寺のノアで録音しました。
セッティング、制限時間ふくめほんと緊張したー。だけど、お聞きいただければ分かる通り、素敵なドラムをもらいました。

この曲で一番苦労したのはボーカルの録り直しです。
3日で録ったものはとにかく完成が優先だったけど、いざちゃんと歌うと難しくて、しかも声もすぐ枯れました。
別の日に歌うと声質が変わってたりするからまたまるごと録り直したり。
ここで一番時間を使ったと思います。

実は転調前と後でメロディが微妙に違うの気付いてましたか。
なんかしあわせ yeah yeah yeah yeah yeahのyeahのところは「ミレドラソ」なのですが、
転調後は「ミレシラソ(正確にはラソミレド)」になっています。
このことは僕も公開直前に気付きました。めっちゃくちゃ驚きました。
直そうかと検討したけど、直すと違和感があるのでそのままにしました。
不思議だなー。なんでだろうなー。

新しく録り直した楽器で一番印象的だったのは、サビで右から聞こえるジャッジャっと刻むエレキギターです。
ちょうどこの頃ビートルズのアンソロジーを聴いて大好きだったギターと似ていて、とても楽しかったな。
「なのであなたといたいの」のところでこのギターだけになりますよね。
実はデモではここはドラムのみだったんです。
それを完全に忘れてドラムの録音をしてしまったので、新たなアイディアとしてこのギターを入れました。
もちろん手癖では弾けないので、どういうふうに弾いたらいいか全部調べて、書き出して弾きました。
音がとってもいいです。

編集作業もめちゃくちゃたいへんだったけど、その話はさすがにコアすぎるのですぐやめますね。
早くこれ専門の人にやってもらいたいといつも思います。ひーひー調べながらなんとか完成させました。

音楽の作業を簡単に分けると①作曲②録音③調整があります。
①は頭を使って、②は体力を使うけど、③はそうでもない感じしますよね。
ところがこれがめちゃくちゃ疲れるんです。神経を使う。
0.1db単位で音量を整えて、何度も聞き直して、何度も直します。
なんでこんなに疲れるのかと考えてたら、この作業は指揮者と同じ役割なんですね。
指揮者と同じかと思ったらなんとか理解できて、必死に完成させました。

結構うまくいっているようで安心しました。


(たわわなしあわせ・解説完)




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グッドバイ完全解説


雲のパレード最終曲、11分18秒から始まります。


グッドバイの舞台は、空港での見送りです。
遠くにいく友人を送ります。長い期間のお別れです。

一緒に長距離の電車に乗って空港まで向かいます。
空港までもこんなに長い道のりなのに、今からそれ以上離れてしまいます。

 遠い道のりを知ってるから
 距離は無関係と言いたくなる

 ずっと一緒にいられないから
 ずっと一緒だって思いたくなる

どこにいても変わらないよね。
遠いところでもずっと一緒だからね。

口にするこれらの言葉にはどうしても虚しさが伴います。
だって、そう思ってないから口にするんだから。
距離は結構大事だし、遅かれ早かれ一緒にはいられなくなるのは事実です。
でも信じていたい。ずっと続くんだよって信じたい。
だから言いたくなるし、思いたくなる。
でもこの主人公は実際に、言ったんでしょうか。思ったんでしょうか。

 永遠はないと気づいてるけど
 永遠の手紙を書いてみたくなる

君の手元と心に、ずっと残る手紙があるなら、書いてみたい。
永遠はないって知ってしまったけど、永遠くらいの気持ちなんだよ。

長い道のりもいつの間にか最終地点。空港です。
手荷物検査を控え、搭乗ゲートに入る直前です。

今までの歌詞は全部主人公の心情でした。
だけどここで初めて、台詞になります。
言いたくなって、思いたくなって、書いてみたくなって。
ぐるぐると考えた結果、絞り出したのは、変な言葉でした。

 朝と夜は孤独じゃないんだよ

「そろそろいかなきゃね」
「うん」
「あのね・・朝と夜は孤独じゃないんだよ」
「え?」
「だからね」

 寂しくないのさ

「だから、寂しくないんだよ」

朝と夜は、一生会うことはありません。
朝になれば夜はいないし、夜になれば朝はいません。
じゃあ朝も夜も孤独なのかな。ううんちがうよ。
朝がいるから夜がいて、夜がいるから朝がいるんだよ。
遠くにいっちゃって、場所も時間も全然ちがうけど、別に寂しくないんだよ。

と、強がって出た言葉が上の言葉でした。
相手はその言葉をなぜか「うん」と受けとめてくれます。
そしてとうとう、お見送りの言葉。

 じゃあこれでね 気をつけてね

気をつけてねと言われて、自分は気をつけたことないけど、どうして言いたくなるんだろう。
無事で、おたがい無事で、また必ず会いたいからかな。

 変わっていくと知っていても
 あなただと手を振りたくなる

そして搭乗ゲートに入っていく友人を見送ります。
環境が変われば、きっと変わっちゃうだろうな。
性格も、友達も、大切にしているものも。
だからもしかしたら、これが最後かもしれないね。

だけど君を、応援しないわけがなくて。
この手を振りたくなるは、本当に振っています。
いってらっしゃい。いってらっしゃい。

後奏の間、何度も手を振ります。
ぽつんと取り残されて、笑顔でいるけど、感情は高まっていきます。
いやだな。いってほしくないな。一緒にいたかったな。
涙は一応こらえます。じゃあね。じゃあね。
そして本当に見えなくなって、ためいきをひとつつきました。
「あーあ」



グッドバイも詩先(しせん:詩を先に作ること)、というかただの詩でした。
「朝と夜は」から「気をつけてね」までがない、シンプルな詩です。
その詩につけた曲は、今の形とは全く違う、6/8拍子のロックっぽいものでした。
その形でライブで披露したことも何回かあります。
今回4曲入りのを作ろうと思ったときにはまだその形でした。

でもどうも単純なのが気になっていました。
6/8拍子を4拍子にしてみたり、譜割りを変えてみたり、色々したけどどれもずば抜けては良くならなくて。
いっそまるごと変えてしまったというわけです。

雲のパレードがなぜ4曲入りかというと、曲数を増やしたかったからなんです。
でも録音は(不慣れで)時間がかかるから、じゃあ弾き語り+α程度で公開しようと。
でもそうすると「静かな曲をうたうひと」っていうイメージが付いてしまうから、
4曲セットにすればコンセプトっぽく思ってもらえるだろうと始めた企画でした。
夜にスマートフォンを枕元で鳴らしっぱなしで眠るような、そういう感じにしようと。
結局弾き語り+αでは全然なくなってしまったんだけどね。

グッドバイも一から作り始めるのはだいぶ迷いましたが、どうしても前の状態では出せなかった。
しかも相当難しい曲になってしまって、何度も途方に暮れました。

 遠い道のりを知ってるから
 距離は無関係と言いたくなる

 ずっと一緒にいられないから
 ずっと一緒だって思いたくなる

 永遠はないと気づいてるけど
 永遠の手紙を書いてみたくなる

 変わっていくと知っていても
 あなただと手を振りたくなる

今の形の原型ができてから、さらに譜割りを2倍にしています。
(コード進行が4拍ずつじゃなくて2拍ずつでした。)
全部一緒のフレーズで(要はぜんぶAメロで)作っていたのをやめて、永遠のところで展開させることにしました。
それと最後の連では転調したいなと。
だけど永遠の展開だけではどうしても短かった。
だからそこから続く大サビを作って、歌詞を付け加えて、転調して手を振るという流れになりました。
言葉で書くと短いけどね。僕にとってはとっても大変な作業でした。
(さらに後奏でもたぶん転調しています)

でもあの大サビは(めちゃくちゃ難しいけど)弾いててめちゃくちゃ楽しくて。
特にベースはめちゃくちゃ楽しいです。
仮歌で歌っていた最初の「あー」の音以外に合う音がなくて「朝」という言葉で詩を書きました。
曲としても詩としてもあの箇所がなければグッドバイはだいぶ違う印象になったはずです。

逃走が完成して、最後のグッドバイの作業に入ったところで舞台の稽古に入ったので、半分程度の作業を舞台後に行いました。
ピアノも録り直しました。弾けないので何度もね。
印象的なエレキギターの音に似たオルガン(右から聞こえます)もかなり後半で録音しています。
それから逆再生のギターを入れてみたかったんだけど、想像どおりにできなくて、結局今の形になりました。
分かりやすいのは永遠の前の2小節かな。結果的に満足しています。というかこれでよかった。
コーラスワークの確定も公開ギリギリです。グッドバイは要は超問題児だったんです。
だけど(なぜか特に音楽をやっている人ほど)グッドバイがいいねと言ってくれることが多くて、本当に安心しました。

後奏に入る瞬間に「あーあーあ」という叫びを入れていて、大好きだったんだけど最後の最後にカットしました。
その代わり急にいなくなった感がかなり出たはずです。寂しくなる感じ。
(実は超うっすらと聞こえます。)

小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」は自分の旅立ちの曲じゃなくて旅立つ人を送る曲です。
すごい視点だよなーと思ってたら、最近「グッドバイもそうだった」って気づいてアホですが結構驚きました。

後奏は、前奏と似ているのに違うコードです。
ギターを弾きながら録ったためいきに合わせて、他の楽器も最後の音を弾いています。

(グッドバイ解説・完)


 雲のパレード関連ページ


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spring完全解説


雲のパレード3曲目、8分18秒から始まります。


springは恋人同士の歌です。
2人は近所を歩いているところ。
女の子はちょっとへんてこりんで、男の子はちょっとまじめです。

 もうすぐ春だねって
 まだ8月だよって
 気が早いなぁって
 笑ったりして

女の子が景色を見ながら、突然「もうすぐ春だね!」と言います。
でもまだ8月。夏の最中です。
男の子は普通に笑ってあしらいます。気が早いなぁって。

 わからなくなるって
 なんのことって
 よくわかんないって
 泣いたりして

そんなふうに笑い合ってたのに、
女の子がまた突然「わからなくなるの・・」と言います。
男の子はわけがわかりません。
「え? なんのこと?」
だけど女の子の目から涙がぼろぼろと出てきます。
男の子は言葉を使うのをやめて、歩幅を合わせることにします。

 自分の不器用さなんて
 どうにかしちゃうよ
 あなたのためなら

へんてこりんな君とは、もしかしたら見てる世界が違うかもしれない。
そんな君に合う言葉を見つけてあげることもできない。

だけどそれを言い訳に何かをしないとか離れるとかじゃない。
何かができないからって落ちこんでる場合じゃない。
落ちこんでるのは君なんだから。
君が僕を必要としてくれる部分があるなら、それで向き合っていよう。
君といたいんだから。

 今こんな気持ちって
 どうして分かるのって
 そりゃあ分かるよって
 笑われたりして

すっかり気持ちの戻った女の子が、景色の上の方を見てぼーっとする男の子を見ていいます。
「今こういう気持ちでしょ!」
誰にも言ったことのないような心をさらっと当てられてただただ驚く男の子。
「わかるにきまってるよ」ってさらに笑われます。
それでさらに好きになる。この人すごい人だなって圧倒されています。

 桜は咲くかなって
 もう5月だよって
 うんそうだけどさって
 悲しんだりして

出たまた季節違いシリーズ!
だけど男の子はまた、つい説明してしまいます。「もう5月だよ?」
女の子が必要としてるのは正解じゃなくて、そう思った心でいいよって共感してもらうこと。
またひとりぼっちになってしまう気がして、泣くまではいかないけど、やっぱり悲しくなります。
女の子は、自分がへんてこりんなことと、へんてこりんって寂しいってことに、気づき始めています。

男の子は慌てます。あーあーあー!そういうこと言わないでよかったんだった。
納得ができなくても、答えを出したり否定をしたりする必要なんてなかった。
ただ「そう思うの?」って言ってあげればよかった。

 自分の器用さなんて
 いくらでもすてるよ
 あなたのためなら

検索で簡単に出るような回答は、もうしないようにしよう。
確かに生活は僕のほうが上手にできる。彼女は生きるのがちょっと苦手だ。
だけどそれでも僕は彼女が好きで、必要で。
だって君以外で「今こんな気持ちでしょ」って当てられる人なんていなかったんだから。

生きるのが苦手というのは、その人がわるいというわけじゃない。
生きるのが上手というのは、別にえらいとかそういうことじゃない。
君の世界をじゃませず、そのままでも楽しく生きてもらえるように、僕はしたいな。
いちばん近くで、この世界とあの世界の緩衝材に、僕はなろうかな。



springは詩先(しせん:詩を先に作ること)の歌です。
書いたときのことを覚えています。
布団に入って、あと5秒で寝ちゃいそうなときに思いつきました。
そのまま携帯で打ってすぐ寝ました。
すでに1500篇書いてきたどっちもいいよの、かなり初期のほうの詩です。
そのすぐ後に「散歩の話」という初の連作詩を書くのですが、たぶん同じふたりです。

作曲方法を再生という曲から変えました。
それまではギターで作っていましたが、どうしても手癖で弾いてしまうんですよね。
手癖のパターン自体も多くないし即興演奏もできないので、似た曲似たコードからの壁を破れずにいました。

再生という曲はイメージがある程度はっきりとありました。
だけどギターじゃ全く弾けなかった。
だから仕方なくピアノで1音1音和音を作っていったんです。本当に1音1音探しました。
作曲時間は相当伸びたし、知らないコードとコード進行ばかりになりました。
だけど、初めてほぼ完全に自分のイメージを表せた感覚があったんです。うれしかったですねー。
相当な手応えを感じて、次に作曲したこのspringからその方法を正式採用しました。
springは元々は手癖で作った曲だったのに、ちゃんと自分の曲になりました。
雲のパレードの他の曲ももちろん全部そのやり方で、全部知らないコードとコード進行がでてきています。

冒頭から出てくるあーあーあーっていうコーラスはだいぶ後半で思いついたものです。
だけど、もはやないと不自然に感じるほど自分の中で当たり前になりました。

サビのコーラスワークは何度もやり直しをしました。
「自分の」って一緒に歌うハモリだったり、小節の頭からあーって歌うコーラスだったり。
このパターンは結構最初にボツにしかけたものでしたが、拾い直して正式採用してあげました。

ドラムは、逃走やグッドバイの一定のリズムとは違って自分でリアルタイムで打ち込んでいます。
鍵盤でドラムをやるって言って伝わ・・らないかもしれないけど、そんなことをしています。
アコースティックギターは本当は使いたくありませんでしたが、必要なので使いました。
ちなみにベースラインには、どの曲も自信があります。
適当に弾くと単純になりすぎるので、どういうふうに弾くかの設計図を作ってから録音しているから。
本当はね、一発で理想の演奏ができるのがいいんだけど。

イントロはたった3拍のへんてこなものです。
イントロが長いとデモを聞いてもらったときに待たせてしまうので(そしてもういいやと思われてしまう)、そういうイントロにしたんです。
他の曲ではもうあんまり気にしてないけどね。
2番の始まりで聞こえる高音は、なんとなく雪をイメージしています。

雲のパレードはフロート、spring、ちょっとあいて逃走、またちょっとあいてグッドバイという順に完成しました。
最後4曲の音量を合わせたりする作業のときに、springがどうしても気になってYouTubeに上げる直前にミックスをし直しています。
せっかく終わりが見えたのにまたやり直し・・ってもう吐きそうだったけど、結果的にはやってよかったんじゃないかなと。

主人公の女の子はへんてこでちょっと泣いてるけど、ファニーなせいで、
雲のパレードの中ではいちばん穏やかにきける、散歩に合う曲になりました。
作詞作曲時の気合いの入り方は正直他の曲のほうが上です(詩はほぼ寝て書いたものだし)。
だけど力の抜けてる感じがいいんだし、この曲を好きって言ってくれる人もいて、やっぱりこの4曲に入れてよかったなって思います。

(spring解説・完)




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逃走完全解説


雲のパレード2曲目、2分38秒から始まります。


逃走はそのまま、逃げる詩です。
夜中にひとり逃げ出します。

 裂ける心だけでも 理由になれるよ

何かを やめるのには、理由が必要だと思ってしまう。
嫌だから、なんて理由ではやめちゃいけない。

ううんそんなことないよ。
上司も部下も最高で給料が高くても、
好きな同級生がいてみんな応援してくれてても、
誰かを納得させる立派な理由がなくても、
心がピキリと痛んだら、それだけを理由にしていいんだよ。

 アイディアが0個でも 逃げたって平気

これやめてどうする気?
やめてなんかあてがあるわけ?
そんなのなくても、逃げたっていいんだよ。
まずこっから出てしまおうよ。

 触れればなくなる でも触れたくなる

あっちに行けば、こっちは消えてしまう。
だけどせずにはおれない。行かずにいれない。
触れずにいられない。

 どこまでもいける 仮の私でも

今の私が何者でなくても、資格も何もなくても、
仮の私でも、どこまでだっていけるさ。

 何かになるのを 待っていれない

何かになったらこうできる、何かになったらこうしよう。
そういうのはもうやめた。

何かになるときなんかいつまでも来ないし、何かになったときに今の私はいない。
今の私が、そうしたいんだから。
今の私が仮の私だろうと、もういくんだから。


そして逃走は2番に入ります。
逃げる準備をするシーンからです。
ほぼ夜逃げ同然。
自宅前の道路で、ワゴンタイプの白い軽自動車に荷物を積んでいます。

雨でも降ったらドラマチックだったかな。
吸い込まれそうなほどの星でも見えたら泣いてしまったかな。
だけどこの日の天気はちょっとだけ曇り。
ドラマチックな天気とは一番遠い天気です。
星が、2つだけ見える程度の。

 星がふたつくらいの 声のない門出

一大決心をした、きっと人生で重要なはずの門出ですが、声は聞こえません。
誰からも見送りの声は聞こえない。誰からの応援の声もない。
もちろん自分の声も。
ただ黙々と、荷物を積んでいます。

 ぎこちない呼吸でも ひとまず使える

緊張したときみたく、浅い呼吸になってる。
というか緊張してるんだろな。
うまく吸ったり吐いたりできていない。
意識すればするだけ分からなくなる。

だけど、この呼吸で今生きていられてるんだから、いいや。
とりあえずいいや。別にいいや。

 もう出よう 心が正しくなる前に

あの人に挨拶したほうがよかったかな。
あの荷物は積んだかな。
っていうかやめて本当によかったのかな。
みんなが言ってたことを聞かなくてよかったのかな。

いや、もう出よう。
誰かの正しさに、ここにいたらなってしまう。
裂ける心の音を、自分だけが聞いたんだ。
誰かの正しさは、自分のとはちがうから。

 だれとでも同じ? どこででも同じ?

あいつが言いました。
「お前なんて、どこに行ったってどうせ変わらないよ。誰といたって同じだよ。何も変わんねえよ」

 同じならもういいや

同じなら、ここじゃなくていいや。
同じなら、ちがうところでいいや。


ここで間奏に入ります。
車に乗って、もう出発しました。
激しいオルガンの音。
運転をしながら「うわー!」とか「うおー!」とか叫んでいます。
それらをかき消してくれる、オルガンの音。

4時間、5時間、だんだんと海沿いの方に近づいてきます。
改めてこう思います。

 思い出が入れ替わってもいい いいよ

今までの思い出が全部なくなって、全部新しい思い出になってもいいよ。
そういう覚悟で、出発したんだ。

空が少し明るくなってきました。
浜辺の近くで、車を止めます。

 風の音だけの世界だと思った

自分はこれから、茨の道を進むと思っていた。
けわしい道のりを、進むと思っていた。
ずーっと、ごおおおという風の音が、いつも耳で鳴ると思っていた。
足はいつも震えて、不安でいっぱいの日々になると思っていた。

だけど今はどうだ。
風の音などしない。
波の音がざああと聞こえるだけ。

静かだ。
穏やかだ。心が。
不安でぐちゃぐちゃになると思っていた心が、まっすぐピンと機能している感じがする。
立っているのもままならないと思っていたのに、地面にしっかり足が付いている感じがする。

あ。
正解だったんだ。
ここに来るの、正解だったんだ。
ここに来たかったんだ。

 朝が来ることも忘れるほど

ずっと夜のままだと思っていたんだ。

 どこまでもいける
 仮の私でも どこまでも

大丈夫。大丈夫。大丈夫。
きっと間違ってない。大丈夫。大丈夫。

そして短い間奏を挟んで、Aメロに戻ります。

 ずっとずっと来なかった いつかになるかな

いつも何かを待っていた気がする。
何かがどこかで変わると思っていた気がする。
いつかきっと何かが。ずっとそう思ってた。

だけど日々はいつまでも日々のままで、大きな出来事など起こらなかった。
漠然と何か外側に期待して、自分はいつも部屋の中にいるだけだった。

これからは、あのいつかに、していけるかな。

 朝が雲の中でも 夜はもう終わり

空は完全に明るくなった。
だけどやっぱり、ドラマチックでもなんでもなく、ただの曇り空。
雲を地球上が覆っていたら、ここは今、雲の中だな。
だけど、夜はもう、終わり。



逃走は雲のパレードの中でいちばんヒリヒリとした曲です。
だけどやさしさがあって、尖っていないヒリヒリ。
この曲に「君」や「あなた」は出てきません。
たったひとりでの決意と行動。誰にも認められない衝動。

この曲もフロートと同じで曲先(きょくせん:曲を先に作る)だったので、後で歌詞を書きました。
歌詞で一番苦労したのは、風の音からの2行です。
完全にイメージがあるのに、2行では足らなくて何度も書き直しました。
海についたこと、夜が終わったこと、ずっと不安だったこと、ずっと震える日々だと思ってたこと、
思ったより震えてないこと、むしろちゃんと地に足がついている感覚があること、ここに来たかったんだと分かったこと。
これを全部入れるのに苦労しました。風の音でいけるかもと気づいたとき、心拍数がだいぶ上がりました。
あとは星がふたつくらいのってところかな。
夜ってあまり曇りって言わないから、曇と夜を使わずに天気を表す言葉を探していました。

この曲のデモでは適当に「酒飲む」から始まっていたので「酒飲みの唄」って呼んでいました。
その「SAKE」の響きはどうしても変えられなくて、そこから裂ける心という言葉になりました。
一箇所だけ酒飲みの唄のときから残っている歌詞があります(内緒です)。
さらにその後、逃走とタイトルを変えた当時の歌詞がどっちもいいよ上に残ってますね。
今の逃走の歌詞がどれだけ錬られてるのかがたぶんすぐに分かるはずです。

イントロの変な音のギターは、とっても迷いました。
ヒリヒリしてる曲にこんなファニーな音を入れていいかどうかということです。
迷って消して、でも捨てきれずに戻して、というのを何度も繰り返しました。
伊坂幸太郎の重力ピエロに「大事なことはユーモアで伝えろ」みたいの台詞があったなーと思って読み返したりもしました。
実際はちょっと違ったんだけど(というか小説の良さに普通に心を打たれて泣きました)。
でも結局捨てきれず、むしろ好きで、いれました。
途中でもういっかい鳴るところも、いいでしょ。

作曲のコード取りで難しい箇所は何箇所もありましたが、時間をかければなんとかできることも分かってきました。
ちなみに理由になれるよの1拍前の和音は、デモの段階で適当に弾いたコードをそのまま採用しています。
すごくいいと思ったからだけど、音楽に詳しい友達には「ありえないコードだよ」と言われました。でもやめられなかった。
夜はもう終わりのところも、元々は適当に弾いてたやつを採用したものです。

間奏のオルガンは、上にも書いたとおり、一番感情が出てるシーンだったのでああいうオルガンになりました。
音量もなるべく上げて、車の中の密室になったときのようやくの感情の爆発を、あそこで描いたつもりです。
そして大変だったのは4小節だけマーチングバンドみたいになるところ。
これは、どこまでもいけるのあと、自分から湧き上がる応援団みたいなのを演出したかったからです。
本当は生の吹奏楽で録りたかったけど、できないので、コンピューターの中にある音源の中から、なるべく生に近いものを選んで使用しました。
うっすらと生のサックス吹いてるけど、小さいのでたぶん分からないはずです。

冒頭からずっと鳴っている規則的なリズムは、揺れる心の中でもぶれない、信念みたいなものです。
ここから抜け出そうという曲でもなく、抜け出したあとの曲でもなく、ちょうどその境界にある曲は意外とないんじゃないかな。
だけど必要な曲だと信じています。

(逃走解説・完)


 雲のパレード関連ページ



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フロート完全解説



https://www.youtube.com/watch?v=mFETqonOGes


フロート(float)というのは「浮遊する」とか「たゆたう」とか、とにかくふわふわと、ふらふらとしている、という意味です。
コーヒーフロートは、コーヒーの上にアイスがふわふわと浮いているよね。

主人公は、原っぱというか、草原というか、そんなところでひとり仰向けになって寝ています。
何にもないところではなくて、寝ている頭の先には2階式の駅があります。線路はスーッと真っすぐ伸びています。
だけどそれしかありません。人の気配もしません。電車も、時々しか来ません。

時刻は朝の10時くらい。
つまり主人公は、なんらかの休憩中です。
学校をお休みしてるのかもしれないし、お仕事を休職してるのかもしれないし、単に休憩してるのかもしれません。

おそらく、主人公には悲しいことがあったと予想されます。
落ちこんで、言っても何も変わらなくて、悔しくて。
ただ、そういう悔しさの最中の心の傷がグジュグジュした状態ではなくて、それから少し経った状態です。
悔しさは消えてったけど、悲しいなあという気持ちがまだ残ってるかなくらいの、そんな状態。

色んな葛藤が主人公にはありました。休憩も、簡単に決めたことではありませんでした。
助走をつけて休憩をしたんです。
様々なめんどくさいこと、しがらみ、環境に束縛されていたんだと知って、それを振りほどくように。
そこで歌うのが次の歌詞です。

 纏うのは はずしていい

まとっているいろんなこと。
そういうのは、外して大丈夫なんだよと、自分に言っています。

 濁す言葉も なくそう

汚い言葉を浴びて、自分からも汚い言葉が生まれそうになることがありました。
だけど、自分の心を濁すそういった言葉はもう捨ててしまおうと、また自分に言っています。

見ている空は、水色と白の風景です。
雲が、いくつものかたまりになって、ゆったりと流れていきます。

 人のない 雲のパレード

自分以外、人気(ひとけ)はありません。
このパレードを見ているのは自分だけ。

 見当たるものが ひとつもないけど

雲のひとつひとつのどこにも、自分が探しているものはありません。
辺りにも、どこにもありません。
そもそも自分は何かを探しているんだろう。
そうふと考えたりもします。

だけど、何もなくても。

 いま なんか しあわせ

主人公は、濁す言葉を捨てて、圧倒的な肯定力を持った言葉で、今の気持ちを表します。
いま、なんか、しあわせ。
何か見つかったわけでもありません。
だけど、いま、なんか、しあわせ。
それ以上でも、それ以下でもありません。

 とまるな

とまるな。とまるな。

そしてピアノの間奏が入った後で歌われる歌詞がこれです。

 永遠の 続きはない

永遠に続くことなんてないんだ。
しあわせ、とまるなって言ったけど、きっと止まる。
だけど悲しいことも続かない。
自分の悲しみは、永遠じゃないんだ。
この状態は、もう続かない。

 わかる そろそろ 飛ぶのだ

わかってるよ。
もうそろそろ、動き出すときだよね。
だから飛べるではないんです。飛ぶんです。



フロートは、雲のパレードの中で一番好きな曲かもしれません。
全曲好きだけど、詩やアレンジが上手くいったとかそういった要素をなくして、シンプルに曲として一番美しい。
作曲は鍵盤を使って行ったので、メロディはとてもきれいなんだけど、その分歌うのがとても難しい曲になりました。
曲にはキーといって、その曲の高さと、実は雰囲気まで決める土台要素があります。
カラオケで上げたり下げたりできるあれです。
フロートのキーはF。それまではFのキーは単純すぎる気がして作れなかったのに、この曲から使えるようになりました。

きれいで、言葉数の少ないメロディに詩をつける作業は苦労しました。
この頃はスマートフォンだけ持って朝散歩に出かけて、思いついたらメモをするみたいなことをやっていました。
(人のアイディアは散歩時とシャワー時に出やすいそうです)
一番難しかったのがサビ終わりの4文字です。
それ以外はできているのに、その4文字だけずっとできませんでした。
夜中に散歩して、帰ろうとしたときに見た「とまれ」の標識を見て決まりました。

その4文字の直後にピアノだけになります。
ここはイメージがあるだけで、まったく音で表わせませんでした(僕は即興演奏ができません)。
だからピアノを適当に弾いて、それを何度も録画して、近そうな雰囲気のものをコツコツ整えていきました。
ちょっと専門的な話だけど、ピアノの最後のコードが偶然Cになって、そのままFのコードに戻れたとき、たまらなくうれしかったです。

ここからは録音のはなし。
右から聞こえるギターがふわふわしてるでしょ。
エレキギターのエフェクター(足元にあって、踏むと音を変えられる装置)には全然詳しくないけど、フロートに合った音にするために試行錯誤しました。
あと目立つのは木琴かな。これが一番大変だったかもしれません。
速すぎてもだめ遅すぎてもだめで、ちょうどいいテンポ感になるまで、数百回やり直しました。
できたと思ってもあとで聞くと速く感じたり、木琴の鳴る2箇所で全然速さが違ったり。
マリンバ奏者の知り合いがいればいいのになんて(愚痴のように)思いながら録っていました。

ボーカルはダブルトラック。
ダブルトラックは同じメロディを2回歌って同時に鳴らす手法です。
ビートルズの多くの曲やMr.Childrenのイノセントワールドで使われていて、同じ人が歌っているのに微妙なズレが起こることでちょっと不思議な声になります。
でもダブルっぽさがあんまりでないようにうっすらと。よく聞くと2つ聞こえるはずです。

間奏で演奏に加わったピアノが、後半一緒に演奏してくれて、その音の混ざりの感じが泣けるんですよね。
実際録音してたときに泣きそうになったくらい。
フロートってひとりしかいない物語、全楽器がユニゾンをしている世界に、なんか強い味方が、なぜか自分の内側から現れてくれたような、そういう気がしたんですよね。

(フロート解説・完)


追記
フロートになる前の歌詞「おしゃべり」がどっちもいいよにあることを忘れてました。
フロートのメロディで歌えます。


 雲のパレード関連ページ
 新曲群「雲のパレード」
 ダウンロード販売について
 フロート完全解説
 逃走完全解説
 spring完全解説
 グッドバイ完全解説




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このどっちもいいよというブログには
制作秘話と解説」というこっそり人気のコーナーがありました。
ブログは更新すればするほど、前の詩がどんどん後ろへ行ってしまいます。
その詩にライトを当てるような気持ちで始めたコーナーです。

今は毎日詩を書いているので、新しい解説は書かないつもりでいました。
5篇1解説でやっていたのですが、それでは1週間分にもなりません。
前のを振り返るより、見たことない詩が出てくる方に興味が移っていました。

けれど当時書きためていた原稿と読みたいという声もあるので、
そういうのを一気に消化しようと思います。

それでは張り切って、どうぞ!
(張り切るのは俺でした!)


制作秘話と解説、本編!
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振り返るきっかけになればと思って始めたこれももう11回目だ。
制作秘話と解説、始まりますよ!

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たまりにたまっている、制作秘話と解説、10回目!

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